「俺は本気だぜ。準備万端にして上層部と掛け合うつもりだ。いや掛け合うは違うな。必ず承諾させてみせる」
俺はその気持ちに偽りがないことを信じてもらうために彼の横顔を瞬きもせずしっかりと見据える。
追加で頼んだ熱燗を俺の猪口に注ぎながら彼がようやく口を開いた。
「確かに世界に通用するビールを作りたいと言ったのは俺だ。しかしな、いきなりそんなこと言われても心の準備ってもんがある」
「わかってるさ。もちろん今すぐに答えが欲しいとは思ってない。ただ、決意ってものは時間を置けば置くほど決められないのも事実だ」
「さすが社内営業トップの口技だな」
険しかった渡辺の表情がようやく少し緩む。
当時、てっきり独身を謳歌し続けると思っていた俺は、まさか彼が結婚を考えているとも知らずそんな提案をしてしまったのだ。
だから、おもしろい話には目がない渡辺がどうしてこんなにも躊躇していたのかわからなかった。
渡辺は、若い頃から常に皆の通る道を避ける男だった。
T大学を出た秀才だというのに、就職もせず自分の未来を見つめ直してくると言って、その後三年間世界に放浪の旅に出た。
日本にようやく帰ってきたと思ったら、世界で一番うまいビールを作ると言って北海道に単身で渡る。
誰からも好かれる人柄だった彼は、しばらく地元の地ビール工場で働かせてもらい、知識を身に着けながら独自の製法で日本では珍しいランピックのビールを生み出した。
その珍しさも手伝って、たちまち日本中で取引が後を経たない有名な地ビール工場を建ち上げるまでに至る。
しかし、順風満帆な状況を経ても尚ここだけにとどまる奴じゃないと確信していたからこそ、そんな提案を持ち掛けた。
俺はその気持ちに偽りがないことを信じてもらうために彼の横顔を瞬きもせずしっかりと見据える。
追加で頼んだ熱燗を俺の猪口に注ぎながら彼がようやく口を開いた。
「確かに世界に通用するビールを作りたいと言ったのは俺だ。しかしな、いきなりそんなこと言われても心の準備ってもんがある」
「わかってるさ。もちろん今すぐに答えが欲しいとは思ってない。ただ、決意ってものは時間を置けば置くほど決められないのも事実だ」
「さすが社内営業トップの口技だな」
険しかった渡辺の表情がようやく少し緩む。
当時、てっきり独身を謳歌し続けると思っていた俺は、まさか彼が結婚を考えているとも知らずそんな提案をしてしまったのだ。
だから、おもしろい話には目がない渡辺がどうしてこんなにも躊躇していたのかわからなかった。
渡辺は、若い頃から常に皆の通る道を避ける男だった。
T大学を出た秀才だというのに、就職もせず自分の未来を見つめ直してくると言って、その後三年間世界に放浪の旅に出た。
日本にようやく帰ってきたと思ったら、世界で一番うまいビールを作ると言って北海道に単身で渡る。
誰からも好かれる人柄だった彼は、しばらく地元の地ビール工場で働かせてもらい、知識を身に着けながら独自の製法で日本では珍しいランピックのビールを生み出した。
その珍しさも手伝って、たちまち日本中で取引が後を経たない有名な地ビール工場を建ち上げるまでに至る。
しかし、順風満帆な状況を経ても尚ここだけにとどまる奴じゃないと確信していたからこそ、そんな提案を持ち掛けた。