ビール大国といえば、俺の中ではベルギー。ドイツはメジャーだが、ベルギーの方が気候や食をとっても俺好みだったこともある。

久しぶりに会った渡辺に、自分の作ったビールをベルギーで売ったらどうかと持ち掛けた。

「クラフトビールの宝庫でもあるビール大国で勝負するとなると、よほど味も質も高くないとまず売れないだろうし、クラフトビールだと大手ほどの量を生産することもできない」

俺がそう言うと、渡辺は顔をしかめた。

「それじゃぁ、所詮ヨーロッパで勝負するなんて無理な話じゃないか」

「そうだな。日本から輸出するという話であればな」

「日本から輸出しないとすればどうするつもりだ?」

俺は彼に顔を近づけて言った。

「現地で作るんだ」

「は?!」

渡辺は目をぱちくりさせ俺の顔を凝視する。

「ばか言え、お前頭おかしくなったんじゃないのか?」

「いや、おかしくはないさ。そういう手もあるって話だ。向こうで生産した方が効率もいいし、日本よりも広大で肥沃な土地が安く手に入る」

「そんな金どこから捻出するってんだ?ばかばかしい」

彼は首を横に振ると、猪口に残っていた酒をぐいっと飲みほした。

随分酒が回ったのか、渡辺の目の周りはうっすらと赤くなっている。

「俺が投資する」

そう言った俺の顔を一瞥するも、渡辺は右手をバイバイするかのように振り顔を背けた。