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八年前。

俺は食品大手会社の【やまてフーズ】で海外営業部のチームリーダーを任されていた。

当時、やまてフーズで開発した良質な冷凍食材を海外に展開する営業を行っていたが、アジアでの業績は順調なのに対して欧米は頭打ちで行き詰っていた。

これ以上行き詰るようだったら、入社当時から世話になっていた俺の尊敬する上司、稲葉部長の席が危ないという噂を耳にする。

最悪、海外営業部自体が縮小されアジアのみの展開で収まることになると。

世界は広い。

俺にとったら日本の良質な食品がアジアだけなんてそんなもったいないことはしたくはなかったし、この会社はもっと世界に名を広めるだけの存在価値があると信じていた。

そこで俺は、海外営業部を更なる飛躍に導きたいなどと(当時の俺ごときの若造が思い上がった事をと今では思うが)、意表をつく一手を打ってやろうと密かに準備を進める。

海外で今後ますます需要があるのは、日本の飲食ビジネスであり、その中でも日本人ならではの細やかな製法で作られる日本の酒類がこれから飛躍を遂げると踏んでいた。

繊細すぎる日本酒は取り扱いが難しい上に、高価になるため富裕層にしか行きわたらない。むしろ日本酒の裏をかいて、最も親しみやすい酒でもある日本の地ビールを世界に広めてはどうか。

これは、大きな賭けでもある。ビールなんて世界中で作られているわけで、それぞれの土地にあった味が売りだ。大手が作る国産ビールは既に世界中に流通していたが、名も知れない日本の地ビールが果たして海外のビールに勝てるのかどうか。

そこで、俺はあいつに一か八かで声を掛けてみることにしたんだ。

元々酒好きだった俺の飲み仲間であり、北海道で地ビールを生産し成功をおさめていた渡辺大地その人。

渡辺は穏やかな風貌と違っていつも芯に熱い思いを抱いていて、既に十分成功を収めているというのに俺はいつか世界に通じるビールを作りたいといつも酒を飲み交わしながら言っていた。