彼が私に視線を向ける。

「変わる?そう簡単にいくかな」

「簡単ではないかもしれないけれど、変われるよう最善を尽くします。だから……」

「だから、俺がお前を信頼するなんて思うな」

さっきまでのあの優しい眼差しは別人なのかと思うほどに、冷ややかな口調で私を突き放した。

私の甘い読みでは、そう簡単に彼の本当の姿を露わにはできない。

「もちろん、そんなこと思ってません」

その言葉は本心だった。

「人の信頼がそんなに簡単に得られるなんて思ってはいません。信じてもらえるかどうかということよりも、一緒にいる間、少しでも変わっていく私を見ていて下さい。自分が変われるチャンスなんてそうそう訪れるとは思えないので」

「ふん」

彼はそう言って鼻で笑うと、カップをテーブルに置き立ち上がった。

「少し外の空気を吸ってくる」

「はい」

怒っちゃったかな。

彼が出ていった玄関の扉が揺れているのを見つめながら、心がどんよりと沈んでいく。

私は、彼にとって全く話にならない存在なんだろう。

八歳も年下の私にわかりきったことを偉そうに言われて、相手をするのも疲れ果てちゃったのかもしれないな。

彼は昨日から随分疲れているはず。その体に私の言動は更に追い打ちかけてるんだろう。

これも私のダメな性格だ。何でもすぐに答えを出そうと相手に喰いついちゃうところ。

深く息を吐くと、彼の飲み終えたカップと自分のカップを持ってキッチンに向かった。

時計の針は午前一時過ぎ。

未だ夜明けまでは随分時間がある。そして、彼が取材を受けてくれる可能性もまだまだ時間がかかりそうだと思いつつ、水道の蛇口を静かにひねった。