「ええ、正直驚きました」

私がそう答えたと同時に彼は口元に手をやり頬を緩めた。

「そうだな。俺自身も正直驚いている。もともと危機管理のなってない奴は最も苦手だからな」

「それは理解しています」

「だが、俺もかつては自分のリスクを省みず生きていたから、お前を見てるとまるで昔の俺を見ているようで心がぐらつく」

彼は足を組み替えると、暗闇がますます深くなった窓の向こうに目を向けた。

私が昔の彼に似ているって言ってたけれど、聞き間違いかしら。まさかだよね?

でもそのまさかは、彼の言葉ですぐに覆される。

「俺はその危機管理のなさで、かつて働いていた仕事で失敗した。仲間や世話になった上司のために動いていたはずだったのに、逆に多大な迷惑をかける羽目になってしまった」

遠い目をしながら話す彼は、まるで自分自身に言い聞かせているかのようだ。

これまでの精悍な社長の姿ではない彼の様子に、かつての彼がひどく傷ついているように感じていた。

「俺が前の会社を辞めることになった時に一番信頼していた上司から言われたことがある。どうして目が二つあるかわかるか?って」

「目が二つ?目の前のものをよく見るため……でしょうか」

「そうだな、よく見るというのは決して間違ってはいないが、もう少し真理をついた言葉で説明すると、一つの目で状況を掴み、もう一方の目で真実を捉える。両者が揃って理解に至るということだ。当時の俺は一つの目で状況を掴むだけで理解する前に感情が暴走していた。だから失敗したんだ」

二つの目でしっかり真実を捉えて理解する。

彼にもそんな時期があったの?

「もう少し冷静に状況を見極め判断することができれば、お前はもっと自分自身のレベルを上げることができると思う。そしてそれは自分の身や仲間を守ることにもつながる」

そう言って私を見た彼の目はとても穏やかで優しかった。

その優しい眼差しに、さっき暗闇で引き寄せられた彼の熱い体温を思い出して顔が熱くなる。

「自分を守れない奴が仲間を守ることはできない」

「はい……」

熱くなった頬を紛らわせるように、コーヒーをごくごくと飲む。