そして、ネコのように大きく光る目で俺をまっすぐに見上げていた。

しかし、勘のいい子だ。

俺が昨晩助けた奴と同一人物だということをすぐに見抜いたらしい。

面倒なことになる前に退散しようとしたら、「錦小路社長!」と呼び止められた。

どうして俺がわかった?

動揺を悟られぬように、無視してその場を離れようとしたが彼女はすごい勢いで俺の前に立ちふさがった。

しかも、俺に自分の編集する雑誌の企画に出ろという。

さっきまで、命が脅かされるかもしれない状況だったというのに、よくもそんな冷静に取材依頼ができるものだとあきれつつも感心する。

恐らく、彼女は自分以上に仕事が大事なのだろう。

そのためならなんだってする、ある意味非常に危険な人間だ。

挙句の果てに俺の前に大きく手を広げて立ちふさがりやがった。

なんだ?この【藤 都】って奴は。

出会ったことのない人種だ。

何を言っても俺の思い通りにはいかない。

通じてるのに通じない。

自分の命を張って必死に何かを守ろうとしている。

俺のあり得ない条件すら飲むと言うんだから、どうしようもない。

まぁ、俺はどうせ明日からベルギーだ。さすがにパスポートなんか持ってないだろうし、例えもっていたとしても俺に着いてくるはずはない。

たった一晩の辛抱だと自分に言い聞かせ、とうとう家まで彼女が乗り込んでくるのを容認してしまったが。

明日からのベルギー。

一体どうなるんだ。結局、藤都は本当に着いてくる気だ。

俺のペースは完全に彼女にかき乱されている。

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脳天から水圧を最大にしてシャワーを打ち付け、シャンプーの泡を流し去る。

顔にはりついた前髪をかき上げ、シャワーの栓を止めた。

あんな少年みたいなお嬢さんに翻弄される俺もまだまだ大したことないな。

自嘲気味に笑うとバスタオルを頭からかぶり思い切り拭いた。

明日は朝早い。

とりあえず、先のことは考えず寝よう。

ベッドルームに向かうと、彼女が風呂を使っているのか水の流れる音が微かに聞こえた。

この家に女性を入れるのはいつ以来か。

久しぶりに胸の奥が熱く波打つ感覚に「何考えてんだ」と自分に呟いた。