俺は彼女に近づくと「大丈夫か?」と声をかける。

「うううん」

彼女の意識は朦朧としていて、目はつむったまま、眉間に皺を寄せ何か言いたげな様子だった。

俺は運転手に連絡をとり、バーの近くまで迎えにくるよう伝えた。

そして、ぐったりした彼女を抱えそのままバーの出口に向かう。

バーテンダーが「大丈夫ですか?」とグラスを置き、こちらに駆け寄ってきたが「大丈夫だ」と礼を言ってそのまま階段を上がっていった。

彼女は少年みたいなショートカットで、眠ってる顔も女性というよりは少女のようなあどけなさがある。

出版社に勤めていると山川が言っていたな。

もしその情報が正しいなら、年齢は二十代半ばくらいだろうか。

それにしても、なんて無茶なことをする女性だ。こんな華奢な体とあどけない顔で。

どうせ、他の出版社のように俺の記事の載せるために周辺を嗅ぎまわっている間にあいつらに捕まったんだろう。

俺が来たからよかったようなものの、もし来なかったらどうなってたかわかりゃしない。

あいつらにうまいこと利用され、まさに後悔先に立たずだ。

既に着いていた車の後部座席に彼女を寝かせると、俺もその隣に座った。

そして、この後どうするか悩んだあげく、俺の御用達のホテルに頼んで一晩この無鉄砲な女性の面倒を見てもらうことにする。

もう二度と彼女とは会うことはないだろう。

ホテルマンにも重々俺のことは言うなと口止めをしてホテルを後にしたのだった。