思っていた以上に山川という男は器の小さい人間らしい。

彼女もかなり気にしていたし、俺も久しぶりに顔を出すかという軽い気持ちで出張先からバーに向かうことにした。

それがそもそも今日に至る序章だった。

バーに入り、バーテンダーに挨拶すると彼が奇妙な顔で俺に目配せする。

元々無口で無表情なバーテンダーがわざわざ何かを伝えようとするのは珍しい。

彼の目線の先に顔を向けると、まさに山川の横顔が見えた。

奴もそれと同時にスマホを耳に当てたまま驚いた様子でこちらに顔を向ける。

そして山川の奥にいるもう一人の男性も確か元うちの社員だったんじゃないだろうか。

見覚えのある顔をしたその男も俺に気づき慌てて自分のバッグを抱え、逃げるように店を飛び出していった。

山川もその後に続くように俺の前を走り去ろうとしたから「おまえら、何やってんだ!」と腕を掴み引き止める。

彼らのいたテーブルにはもう一人、スーツ姿の女性がテーブルにつっぷしていた。

山川はへらへらと笑いながら、「連れが飲ませすぎちゃったみたいで、彼女つぶれちゃって」と言ってやがる。

「彼女は誰だ?お前の知り合いか?」

「今日会ったばかりの出版社の子です。社長の周囲を嗅ぎまわってたから俺がこれ以上付きまとわないようにしてやろうと思って……」

「まさか酒以外のものは飲ませてないだろうな?」

俺の声にも緊張が走る。

「ちょっと強いお酒を飲ませただけで、あんな風になっちゃって……」

バーテンダーに視線を向けると彼も「これです」と言って、かなり強めのテキーラの瓶を持ち上げた。

「ったく!」

くらだないことしたもんだ。こんなことしなければ優秀な営業マンとしてもう一度やり直せたのに。

テーブルにつっぷした彼女は微動だにしない。相当な勢いで飲んだんだろうか。

それにしても彼女もどういう人物だ?危機感がなさすぎるだろう?!

この後始末はやはり俺がつけるべきだろうな……。

山川がここにいてもロクなことにはならないと判断した俺は、彼の腕を掴んでいた手をほどき「もう行け。彼女のことは俺がなんとかする」と告げた。