最初から海外出張を切り札に、私にそんな条件を突き付けてきていたのかもしれない。

この期に及んで、なんて卑劣なやり方なの!

「さあ、どうする?よく知りもしない男と一週間のベルギーバカンスだ。ここから先の判断は、お前の自己責任になる」

私はぐっと両手を握りしめると、彼を上目遣いでにらみつけた。

「もちろん行きます!」

「ふん」

彼は軽く息を吐き、いらだった様子で私から顔を背けた。

「お前も相当意地っ張りで強情な奴だな。いい加減あきらめろ」

「強情さでここまで生きてきた人間ですから、全く問題ありません」

「そんなことばっかり言ってると、男にモテないぞ」

私は更に語気を強めて言い返す。

「もともと男なんて興味ないですから!この仕事があれば私は何も必要ありません」

「ほう」

彼は顎に手をやり、まるで何かを観賞するかのような視線を向けている。

「そこは俺と共通しているな」

「共通?」

「やりたい仕事さえできればそれでいい」

そう言うと彼はソファーから立ち上がり、私の前にやってきた。

「しかし、俺は男だ。お前と違って異性に全く興味がないとは言えない。何かあっても責任はとれないがそれでも俺と一緒に行くか?」

艶っぽい彼の瞳に呑まれそうになるのを必死に払いのけ答えた。

「責任がとれないようなことには絶対ならないから大丈夫です」

社長はフッと口元を緩め、軽くうつ向く。

「わかった。お前のそのリスク管理のなさがどこまで通じるか拝見させてもらうとするよ」

そして、彼は「ごゆっくり」と私に言い残して、リビングを後にした。

白い壁に、彼の部屋の扉が閉まる音が静かに響く。