「ん?偉そうな口叩くわりに男の裸も見たことないのか?」

うっ……。乙女に向かってなんてことを聞くの?!

私は背を向けたまま答えた。

「見たことくらいあります!」

もちろん、父と弟オンリーだけど。見たことがあるというのはギリギリ嘘じゃないよね。

それにしても、錦小路社長はなんて意地悪なのだろう。彼のような冷徹な人間から、世の働く女性達を感動させるメッセージがもらえるのか甚だ不安だ。編集部で追加修正しまくりなんじゃないかしら。そんな事態に陥ったら、例え貴重な存在とはいえ普段から忙しい私達にとって全く迷惑な話だ。

今更の今更だけど、ここまで虚仮にされて依頼する価値は本当にあるのか……。

「着替えは玄関すぐ横の来客用の部屋のタンスに何着か入ってるから」

「はい?」

半分目を隠したまま、ゆっくりと彼の方を振り返る。

「それは、女物でしょうか?」

「男物でもいいなら俺のを貸すけどお前にはでかすぎるだろうな」

彼は笑いながらリビング横のキッチンに入り冷蔵庫を開けた。

でも、どうして女物の着替えなんか持ってるの……?

謎が謎を呼んでいく。
そうか、ここまでイケメンでお金持ちだったら、彼女の一人や二人いても当然なのかもしれない。

でも、奴の彼女の衣服を着るのはさすがに普段服装に無頓着な私でも御免だ。

かといって着替えがないのも困るけれど。

「飲む?」

頭を抱えていた私の前に缶ビールがにょきっと突き出される。

いつの間にか黒いTシャツを着た彼が、ビールを差し出していた。

「あ、ありがとうございます」

ビールに目がない私は衝動的に手に取ってしまう。

なんだ、気が利くところもあるじゃない。

ソファーに腰を下ろした彼が缶ビールを傾けながら言った。

「俺にはちょうどお前の背格好くらいの妹がいるんだ。時々こちらに遊びにくるから困らないように新しい衣類はいくらか用意してる。変な想像はしなくていいから安心して使えよ」

まさに変な想像をしていた私は顔が熱くなる。

この人は私の気持ちが読めるんじゃないかしら?落ち着かないったらありゃしない。