誰かの視線を感じて顔を上げると、カウンターの中にいるバーテンダーと目が合った。注文もせずただ座ってるだけじゃやはりまずいよね。

とりあえずバーテンダーに飲み物頼んだついでに、昨晩のこともちらっと聞いてみようか。

社長の存在も気にしつつ、私は腰を上げると、カウンターを挟んでバーテンダーの前に立った。

オールバックの表情は昨晩と同じくクールで無表情だ。つるんとした顔は年齢不詳。

やってきた私を一瞥するも、特に何か尋ねるわけでも昨晩のことを心配するわけでもなくひたすらグラスを拭いている。

「あの、注文いいですか?」

おそるおそる声をかけてみると、バーテンダーはようやく私と目を合わせ「はい」と言った。

「アップルタイザーで」

「は?」

無表情なバーテンダーの表情がようやく少し崩れる。

「あの……アップルタイザーはないでしょうか?」

メニューには確かあったはずだと思いながら、念のため尋ねた。

薄暗いライトに照らされたバーテンダーのつるんとした顔についた口が思いの外滑らかに動き始める。

「お客様は確か昨晩もおられた方ですよね。一番強いお酒を所望された方だと記憶しておりますが、アップルタイザーにはアルコールは含まれておりませんがよろしいでしょうか?」

「一番強いお酒?」

「ええ。お連れ様がおっしゃられたのには、お客様が大変酒がお強いということでビールに一番強いウォッカを入れるよう言われましたので。その後、強すぎたのかすぐ眠っておられたようですが」

あー。

そうだったのか。

私が昨晩飲んだのはノンアルコールではなくウォッカが利いたビールだったんだ。変な薬でもなんでもなく。

そのことにやや安心しつつも、やっぱりあの二人の企みにまんまと引っかかってしまった自分に改めてうんざりした。

そうそう、そんなことより聞くならまさに今だわ。

「ところで私が昨晩酔いつぶれてしまった後、誰かが介抱して下さったと思うのですがご存知ないですか?」