一体、社長は何時頃、いつあのバーを訪れるのか。

全く見当もつかないけれど、とりあえず昨晩行った時間に合わせることにする。

大通りをバーのある路地に向かって進んでいくと、路地の前に大きな黒いセダンが停まっていた。

ん?

後部座席から、背の高いスーツ姿の男性が現れ、運転手に挨拶をすると路地にまっすぐ入っていった。

もしや?

背が高くて、明らかにあの高級車は社長専用車じゃないの?確かめなくっちゃ!

慌ててその車に向かって走ったけれど、車はすぐに発進して行ってしまった。

間に合わなかった!

それはそうとあの大柄な男性?もしや錦小路社長じゃないの?

路地を覗き込むと、もうその男性の姿はなかった。

ということは、あのバーに行ったんじゃ?

胸の鼓動が速まっていく。

ゆっくりとそのバーの地下の入り口に向かう。

落ち着かなくっちゃ。

最初が肝心だもの。ここでやらかしたら、絶対引き受けてなんかもらえない。

錦小路社長はそういう人間じゃないかと感じていた。

地下の階段を降り、黒い扉の前で深呼吸をする。

そして、静かにその扉を開けた。

昨晩のようにしゃれたジャズのメロディと微かなたばこの香り。

昨日と違うのは私が一人でこの場所に立っているということ。

扉から顔だけ中に入れ室内を見回すと、今日は金曜だからか昨晩よりも人の入りが多かった。

カウンターもほぼ埋まっていて、ソファー席も空いているのは一席のみ。

薄暗い上に皆座っているから、社長らしき背が高い人物がどこにいるかは検討もつかなくなっていた。

一人ひとり当たっていくわけにもいかず、とりあえず空いていたソファー席に腰を下ろすことにする。ソファーからの方が全体を見渡せるしね。