革張りのソファーに腰を下ろすと、山川さんは辺りをキョロキョロ見渡し「今日は社長はいないみたいだな」とつぶやいた。

時間が早いからなのか、客はまだ少なくカウンターに一人と、私たちの座るソファー席の二つ飛ばした向こうに二人だけ。

「ここなんですね」

こんな雰囲気のバーに来たのは初めてだった私は落ち着かない気持ちでとりあえずバッグから手帳を取り出した。

「社長はここにはどれくらいの頻度で来られるんでしょうか?」

「そうだね。秘書が言うには週に一、二回くらいかな。ただ、社長も忙しい人だから月の半分は海外にいるんでね。いつ来るかっていうのは正直予想もつかない」

そんな忙しいんだ。海外に月の半分だなんて。

例え第一関門の取材依頼を突破したとしても、社長の予定とタイミングが合うかどうかってことが第二関門か。

逆にタイムリミットの二週間なんて悠長なことは言ってられないわ。

とりあえず、今仕入れることのできる社長情報を聞いておかなくちゃ。次は一人で社長を待つことになるだろうから。

私はテーブル越しに前のめりになり尋ねた。

「あの、社長ってどのような風貌の方なんでしょうか?背格好とか特徴的なことがあれば教えて頂きたいんですが……」

「とにかく大きな人だね。背は190くらいはあるんじゃないかな。するどい切れ長の目が特徴的で、とにかく均整のとれた端整な顔立ちだ。いわゆる女性目線で言うところのイケメンだと思うよ」

「若い頃はモデルにならないかって何度もスカウトされたらしい」

そう言った二人は視線を合わせて口元を緩める。

確かにイケメンとは聞いていたけど、この二人が言うからには真実だろう。

「あと、特徴的なのは左唇のすぐ下にある小さなホクロだよ。これがまた女性にとっちゃたまらなく色っぽいらしいぜ」

岡山さんがにやにや笑いながら私の顔を覗き込むような仕草をした。

どうもこのにやけた感じの岡山という男性を好きになれないと思いながら、必死に手帳にペンを走らせる。