手帳を片手に急いで会議室に向かった。

「失礼します!」

会議室の扉をノックし静かに開けると、正面に座っていた山根さんが視線を落としたまま手を挙げる。

「都、お疲れ」

「お疲れ様です」

「ま、座って」

私は言われるがまま山根さんの正面に座った。

「さきほど、明日発売予定の【月刊MOOM】編集部担当の方が挨拶に来られたわ。ほら、都の記事がここに載ってる。顔写真もかわいく映ってるじゃない?」

彼女はくすっと笑いながら、そのページを私の前に広げた。

わわ。

半ページほどの企画記事に私の顔がどんと恥ずかし気もなく載っている。

インタビュー形式で書かれた記事は、私がとても優秀な人材として描かれていて、コメント一つひとつが編集者によって恐れ多いくらい高尚な言葉に変貌を遂げていた。

そのページに載っているのは紛れもなく私だけれど私でないみたいな不思議な感覚と同時に、思わずこの雑誌を抱えてこの場から逃げ出したいような衝動にかられた。

掲載される側に立つのは初めてだったけれど、こんな気持ちになるものなんだ。

わが身ながら、あらためて編集者の編集力には感服させられる。その存在はありがたい以外何ものでもない。

その人物をそれ以上の人物として扱ってくれるんだから。

雑誌から顔を上げると、編集長が穏やかな表情で微笑んでいた。

「これもいい経験だったわね」

「はい。でも、私がこんな大それた雑誌に載せて頂くなんて、本当ならまだまだのレベルだってことも痛感しています」

「そうね。全くそう思うわ」

山根さんはそう言って笑った。

「だけど、編集というものの大切さが身に染みてわかったでしょう?都にはその経験がこれから生きてくると思ったから、思い切って引き受けたっていうのもあるわ」