車から降り立つと、彼は直ぐに私の手を握りそのまま広場から山の奥に続く道に向かう。

月の光を頼りに、足場の悪い山道を彼の手をしっかりと握り歩いていく。

さわさわと木々の擦れる音や、じっと息をひそめる生き物の気配を感じながらしばらく進んで行くと一気に視界が開けた。

隠れ家的広場だろうか?

私たちの他には誰もいない。

開けた先の突き出した場所に置かれた木製のベンチがスポットライトが当たっているみたいに月明かりに照らされていた。

彼は手を繋いだままそのベンチの前に連れていくと私に座るよう促す。

そしてベンチに座った途端に目の前に広がる光景に言葉を失った。

遮るものが何一つない視界には一面の宝石箱のような夜景が瞬いている。

ふとその眩い光ひとつひとつがかけがえのない命の輝きに思えて、その世界の美しさに胸の奥からぐっと何かが込み上げた。

ここにいる私たちも今こうしてこの美しい世界に生きてる。

彼がそばにいる。

愛する彼が私を見つめている。

なんてすばらしいんだろう。なんて幸せなんだろう。

「泣いてるのか?」

彼が静かに私の横に腰を下ろした。

「どうしたんだろう。なんだか感動しちゃって」

「都」

彼が私をそっと自分の胸に引き寄せる。

温かい彼の鼓動が私の頬に伝わり、今朝から不安で震えていた自分の心がゆっくりと落ち着いていく。

礼さんとずっと一緒にいたい。

この世界が続く限り、そばにいてほしい。

「礼さん……」

私は胸の中で彼の顔を見上げた。