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なんとか坂東さんをごまかして、先に社に戻ってきた。

あー、あぶなかった。

「また勝手に一人で何か企んでいるんじゃないでしょうね?」

坂東さんは疑うような視線で顔を近づけてきた。

思わず、いつも窮地に陥った私を救い上げてくれる彼女に全てを打ち明けてしまいそうになる。

そんな中ふっと頭の上から何かが降りてきたような感覚があった。

坂東さんの助けを借りずとも解決できる方法がまさに閃いた瞬間。

それは太東出版にも私達にも悪い話ではないはず。まさに両成敗。

だけど、そんなこと私一人が勝手に進めることのできる話ではなかった。

だって、それは礼さんにも深く関わってくることだもの。彼の意思なしでは動けない話だ。

かといって、私からそんな話を気安く彼に相談する内容でもない。

思わず自分のデスクに頭を抱えてうつ向く。

私の頭ではこれが限界。全てのリスクを避けるには情けないけれどこの方法しか思いつかない。

それが正しいのか間違っているのか。

きっと礼さんならすぐにその答えを私に教えてくれるだろう。

礼さんには内緒で進めようと思っていたけれど、やはりこれは所詮無謀な話だ。

となれば、また別の方法を考えなければならないのだろうか。

はぁー、どうしよう!

「ほらほら、何項垂れてるの?」

机につっぷしている私の後頭部を誰かがそう言って軽く叩いた。

慌てて顔を上げると、N新聞社から戻った山根さんが苦笑して立っていた。

「お疲れ様です」

「はいはい、ただいま戻りましたぁ」

山根さんはそう言うと、自分のデスクに向かい腰を下ろす。そして肩肘をつき私に顔を向けた。

「都が項垂れるなんて何かあったの?あなたの記事、かなり評判いいわよ」

「え?」

思わず背筋を伸ばして聞き返す。

「今N新聞社に行ってたんだけど、あの錦小路社長からあれほどの内容を引き出すなんて、是非うちに来てもらいたい人材だとべた褒めだったわ」

「やるなぁ、都。でも確かに今回は都のお陰で素晴らしい号になったのは間違いない」

普段はシャイで直接褒めることはしない川西さんが珍しく大きく頷いてそう言った。