坂東さんは背後から私が手にしているSPAT!を覗き込むと顔をしかめる。

「何?明らかに都の趣味じゃないわよね」

「あ、これ?そう、全然趣味じゃないんですけどたまたま目に留まったから手に取ってみただけです」

「ふ~ん、妙ねぇ。まずは自分たちの雑誌見に行くんじゃないの?」

「それは、もう入ってすぐに見ました」

「ほら、また来たわよ」

彼女は私の肩をぽんぽんと叩くと、私たちの雑誌が置かれている場所を指さした。

サラリーマンらしき人物が雑誌を手に取り、恐らく錦小路社長の記事を広げ見ている。

「買っちゃえー」

坂東さんが小さく私の横でささやいた直後、その男性は雑誌を持ってカウンターに向かった。

「おっ!まいどありー!」

「もう、坂東さん、ふざけすぎ!」

私は苦笑しながら、坂東さんの腕をこづく。

でも、私たちがこの本屋に入ってから何人もが雑誌を手に取って見ていた。

こんな短時間で頻繁に手にしているところを間近で見るなんていつ以来かしら。

坂東さんが高揚するのも無理はない。私だって本当はジャンプしたいくらいの嬉しいのに。

「で、私の勘が正しければ、さっきの都の来客は太東出版じゃない?」

「え?」

突然その社名が坂東さんの口から発せられたので、思わず目を見開いて硬直してしまった。

「その顔はビンゴね?」

坂東さんも目を大きく見開き私の顔を凝視する。

「ち、違います」

「ほんと、都は嘘がつけないんだからー。で、何の用で都に会いにきたわけ?」

彼女は私に顔を近づけてぐっと丸い目で睨んだ。

「ご挨拶に来られただけです」

「ご挨拶?どうして都に?」

「それは……それは、私が錦小路社長の記事を担当していたからです」

「誰が担当しているかなんて知るはずないじゃない。都!何か隠してるわね?」

そう言うと、彼女は私の肩を引っ掴み揺らした。