「それはそうと話は戻るんだけど」

坂東さんはいつになく真面目な顔で私を見た。

「さっきの来客、一体どこの出版社?」

普段のように冗談でかわせない彼女の鋭い視線に思わず怯む。

「えっと、どこだったかな……?」

とぼけてみせた私に、坂東さんは腕を組みため息をついた。

「今回うちみたいな中堅出版会社が錦小路社長の記事を取り扱ったことは、出版業界でもかなり衝撃的なことだったと思うの。編集長も言ってたけれど、出版前も出版後も様々な手口で色んな人間がこちらに取り入ってくる可能性があるわ。N新聞社に編集長が朝から慌ただしく向かっていたのも多分その関係だと思う。これからは相手を見極める目が大切よ」

「はい、心得てます」

「でも、一人じゃどうしようもない時は一人でなんとかしようとしないで!そこは都の悪い癖だから」

坂東さんの真剣な眼差しを見つめていたら、思わずポロっと本音が出てしまいそうだった。

確かに、いつも一人で何とかしようとして失敗することが多い。

礼さんも、若い頃それで痛い思いをしたと言っていたっけ。

だけど、今回ばかりは私自身の問題だ。

自分の責任でなんとかしないといけないことだって思ってる。

「坂東さん、いつもありがとうございます。本当に困った時はお願いします」

私は何ともない風を装って口角を引き上げわざとらしい笑顔を作った。

「なんだかねぇ。都のその笑顔、全く信じられない」

「信じて下さいよー」

ふざけた調子でそう言いながら、坂東さんの弱点である脇腹をこちょこちょくすぐる。

「もう!これで信じられるかっての!」

坂東さんは笑いながら、私のそばから逃げ出した。

先輩ながら、いつも明るくてかわいい人だと思う。旦那さまは、きっと彼女のそばにいたら私と同じでいつも笑顔でいられるんだろうな。

私も礼さんにいつも笑顔を届けられるようになりたい。