なんとか立ち上がり、自分の職場に重たい足を引きずり戻った。

「おかえりー」

坂東さんはコーヒーカップを傾けながら私に手を挙げる。

「ただいま戻りました」

力なく笑い、崩れるように椅子に座った私に坂東さんは尋ねた。

「結局誰だったの?来客みたいだったけど」

「ええ、同業者でした」

「同業者?すごく顔色が悪いけれど大丈夫?」

彼女は私の顔を心配そうにのぞき込む。

んん。いつも気にかけてくれる坂東さんには本当に感謝だけど、今はそっとしておいてほしい。

下手したらまたいつものように甘えちゃいそうだ。

こんな話、誰にもまだできない。いくら親しい坂東さんにだって、したら最後。迷惑かけるにきまってる。

その時、電話が鳴った。

「はいはーい」

坂東さんはそんな私の気も知らず、相変わらずのハイテンションで電話を取った。

「えー!すごいすごい。すぐに伺ってもいいですか?」

その電話の相手に目を輝かせて対応している。

一体何事?今日はやけに電話が多いような気がするんですけど。

電話をおくと、坂東さんは立ち上がり編集部を見渡して言った。

「TUTA書房駅前支店からなんですけど、朝からうちの雑誌がすごい売れ行きなんですって!予約も殺到していて、追加注文が既に入ったわよ!」

「そりゃすごいな」

川西副編集長が顔をほころばせて、坂東さんに座ったまま体を向ける。

キーボードを夢中で叩いていた由美ですら手を止め顔を上げ嬉しそうに笑った。

間違いなく錦小路社長効果だろう。