「まぁねぇ……うちみたいな小さな会社に行くなんて、あり得ませんよねぇ。困らせるようなことを言って申し訳ない。ちなみにうちが一番売り上げを誇っている雑誌がこの雑誌でしてね。一度くらいはご覧になられたことはありませんか?」

近藤さんは足元に置いていたビジネスバッグから一冊の雑誌を取り出し私の前に置いた。

「これは」

その雑誌は【SPAT!】だった。

私で目にしたことのある、いわゆる有名人のスキャンダルをどの雑誌記者よりもいち早くキャッチし掲載するのが売りの雑誌だ。

私はこの手のものは信憑性にかけるし、人のあら捜しみたいで嫌いだったからあまり読んだことはなかったけれど、名前はよく知っている。

SPAT!を発行しているのが太東印刷だったんだ。

でも、そんな会社がなぜ?

ふっと、全てのつじつまがある一点に集まってくるのに気づく。

「おや?顔色が変わりましたね?さすができる編集者は違いますねぇ。勘がいい」

近藤さんは私の動揺を見逃さず即座に食いついてきた。

「私も、長い間この雑誌の記者をやっておりましてね、マスコミ嫌いの錦小路社長をなんとかしてうちの雑誌のネタにしたいと随分前から調査していたんです。食品業界では一匹オオカミ的な存在であるにも関わらず、能力も才能もピカ一でその地位を確固たるものしている錦小路社長をうらやむ人間はわんさといますからね」

彼は雑誌を手にすると、自分の顔の横に持ち上げさっきまでニヤニヤしていた表情から瞬時に真顔になる。

「うちに先月タレコミがあったんですよ。おたくの会社が錦小路社長の取材を体を張って取ろうとしている女性編集者がいると」

私は彼から目を背けるとゴクンと唾を呑み込んだ。