彼の手は思いのほか暖かくて優しくて不覚にも胸がドクンと大きく震える。

「俺も忙しいから、お前を悠長に見てる暇はない。今日から一週間、ずっと俺のそばを離れるな。仕事の時だけでなく一日中だ。その際のお前の一挙一動から引き受けるかどうかを判断させてもらう」

「一日中?って、ことは私はずっと自分の家にも仕事場にも戻れないってこと、でしょうか?」

「もちろん」

彼はようやく私から離れ、腕を組み私を悠然と見下ろした。

私の手が微かに震えている。さっき両腕を上げていたせいなのか、そうじゃないのかはよくわからないけれど。

「あなたのそばに昼間だけでなく夜も一緒にいなければならないってこと、ですよね?」

あらためて聞くまでもないことはわかっていたけれど、まさかこんな条件をつきつけられるとは想像の範疇を越えていた。一体この人は何様のつもりなの?!

これは夢かもしれない。気づかれないように自分の太ももをつねってみると鋭い痛みが走った。

ってことは、夢じゃないってことだ。

私、とんでもない人物と関わってしまったんじゃないかしら。

そんな思いが頭をよぎるも今更どうこうしようもない。

ここまで来たら突き進むしかないのはわかっていた。

「それが俺の条件だ。さぁ、どうする?」

彼はそう言うと少しきつめの口調で言い放つ。

「この条件が呑めないなら、もうこれ以上俺にまとわりつくな。俺はそんなに暇じゃない」

「ま、待って下さい!」

そのまま立ち去ろうとした彼を慌てて呼び止めると、彼はまだ何か?というような怪訝な表情で私を見下ろした。