パーテーションで仕切られた二番の商談室の扉を開けると、年齢は三十代後半くらいだろうか。

ラフに分けられた前髪に細長い顔。

アイロンのかかっていなさそうなよれよれのワイシャツに茶系のジャケットを羽織った、小柄な男性が立っていた。

こんな人、知らない。

そう思いながらも、なんとか笑顔を作り会釈をして商談室の扉を閉めた。

自分の名刺を差し出しながら「編集部 藤都です」とあいさつをする。

「急にお呼び立てして申し訳ありませんね。太東出版の近藤と申します」

そう言って彼の名刺が私の正面に突き出された。

名刺を互いに交換し、机を挟んで腰を下ろす。

この商談室は狭くて普段からあまり好きじゃない。

なぜなら、狭いってことは相手が近いってこと。

決して顔色がいいというわけではないその細長い顔の近藤さんは、目だけが異様にギラギラしているように見えた。

「あの……初めまして、でしょうか」

彼の顔色を窺いながら上目づかいで尋ねると、近藤さんはニヤッと笑う。

「ええ、まともにお会いするのは初めてですね。何度もおそばでは拝見しておりましたが」

そばで拝見してたってどういう意味だろう。

含んだ物言いをするこの近藤さんという男性は危険だと瞬時に感じる。

リスクヘッジしなければという声が自分の中に聞こえた。この人には余計なことは言わない方がいい。

知らないことは例え知っていたとしても知らないと言った方がいいような気がした。