「今受付から都宛てにかかってる。転送するね」

「あ、はい。ありがとうございます」

坂東さんが転送してくれた電話にすぐに出る。

「藤です。お電話代わりました」

『編集部の藤さんですね。今受付に藤さんに会いたいと来られてる方がいらっしゃるのですが』

私に?

私宛に来るって行ったら、印刷業者の誰かか以前取材依頼してお世話になった誰かか。

「どちら様でしょう?」

名刺手帳を引き出しから引っ張り出しながら尋ねる。

太東出版(たいとうしゅっぱん)の近藤様とおっしゃられていますが、いかがいたしましょう?』

太東出版の近藤?

名刺手帳を必死にめくるもそんな名刺はないし、実際会ったという記憶の欠片もなかった。

どうして、私みたいなまだ平編集部員に決め打ちで来たんだろう。

さっきの由美の電話の時と同じような胸のざわつきが鼓動を速める。

『どういたしましょう?』

せっつくように受付嬢が再度尋ねてきた。

「すみません、すぐに降ります!」

私は慌ててそう返答し、名刺と手帳を持ってエレベーターに駆け込むと受付のある二階のボタンを押す。

太東出版、太東出版……どんな出版会社だったっけ?

すぐに出てこないってことはきっと大手ではないはずだ。だけど、どこかで聞いたことがあるような。

うちくらいの規模か、もしくはもっと小さい出版社かもしれない。

でもなぜ私に??

エレベーターがガクンといつも以上に音を立てて止まり扉が開いた。

目の前にいる受付ブースにいた受付嬢の一人が立ち上がり、私に会釈をする。

「太東印刷様は二番の商談室にいらっしゃいます」

「ありがとうございます」

私は二番の札を手渡され、商談室に急いだ。