「ほら、これが彼の写真よ」

澪さんは楽し気にスマホに収めていた彼の写真を私たちの手元に置く。

「アレッサンドロ……」

彼は呟きながらそっとスマホを手に取った。

そこには、私たちの知ってるアレッサンドロさんとは程遠い(それは失礼か)、丸くて人の好さそうな笑顔の男性が映っていた。

「アレッサンドロって、結構よくある名前なんですね」

私はそっと声にする。

「ああ、そうみたいだな」

ホッとしたような様子で、彼は澪さんにスマホを返した。

「イタリア人の男性は誰にでも優しいが、このアレッサンドロは大丈夫だろうな?」

「ええ、見ての通りとても優しくて誠実な人よ。大丈夫」

確かに。

遊び人って感じではないわ。

彼と目を合わせると、私はこくんと頷ずく。

「来月彼が日本に遊びに来るの。礼兄ちゃんには会ってもらいたいから、忙しいだろうけど時間作ってもらえる?」

「ああ。また連絡してくれ」

彼は椅子の背にゆったりともたれると、ワイングラスを手に取った。

すると、澪さんは真面目な顔で私に体を向けて言った。

「こんなに礼兄ちゃんが私のことを心配するのも、私の保護者みたいな存在だからなの」

「保護者?」

私はすぐにその意味がわらかず彼の方に視線を向ける。

「あら、ひょっとしてまだ都ちゃんには何も話してないの?私たちのことや両親のこと」

澪さんは肩ひじを付き自分の顎に手を当てると、目を丸くして礼さんの顔を見た。

「これからぼちぼち話せばいいかと思っていたんだが。今か?」

恐らく、礼さんの話すタイミングではなかったのだろう。

「だって、今日私ともこうして出会ったわけだし話すにはいい機会だと思うわ。礼兄ちゃんも都さんのこと真剣に考えてるんでしょう?」

真剣に考えてるって、それって、いわゆる結婚前提とかそういうたぐいのものだろうか。

だけど、知り合ったのも付き合ったのもごく最近なわけだし、まさかそこまで考えてるとは思わないけれど。

ドキドキしながら彼の表情を盗みみると、特に動揺している風でもなく普段と変わらず涼し気な顔でワイングラスを傾けていた。

そして、グラスをテーブルに置くと私に視線を向け尋ねる。

「少し長くなるが、今話しても大丈夫か?疲れてるならまた別の機会にするが」

「いえ、私は大丈夫です。是非聞かせて下さい」

私は姿勢を正し彼に体を向ける。

「わかった」

そう言うと、彼は足を組み替え静かに話始めた。