「で、さっきお前が言いかけた話だが、どういうことだ?」

彼はグラスをテーブルに置くなり詰問口調で澪さんに問いただす。

「え?だから、お嫁に行こうかなーって思ってるってだけよ」

「思ってるだけって初耳だぞ」

「そりゃそうでしょう、初めて言ったんだもの」

澪さんは手を叩いて楽し気に笑う。

完全に彼が澪さんに翻弄されている感じなのがおもしろい。

彼にも太刀打ちできない相手がいたなんて。

「そんな大事な話ちゃんと俺に話せよ。一体相手はどういう奴だ?」

「ほら、一年前からヨーロッパを渡り歩いてたって言ってたでしょう?実はヨーロッパに行く前に彼氏に振られちゃってそれで会社辞めて行ったっていうのもあるんだけどさ」

「お前、あの会社辞めたのか?」

礼さんはあきれた顔で腕を組んだ。

「ええ、礼兄ちゃんがせっかく紹介してくれた食品製造メーカー会社だったんだけど、振られた相手っていうのもその会社の上司だったのよねぇ。働きづらくなっちゃったってのもあるんだけど、それは謝るわ。ごめんなさい」

彼女は首をすくめて素直に謝る。

「今更だが社長に一言詫びておくが、そんな話は早めに俺に言っとけよ」

「わかった」

「それで、本題だ。相手はどんな奴だ?」

「ええ、その傷心ヨーロッパ一人旅で出会った人なんだけど。彼はイタリア人でね、すごく優しい人なの」

「イタリア人?まさかアレッサンドロじゃないだろうな」

彼は冗談めかして言うと、私に視線を向けニヤッと笑う。

「ええ、アレッサンドロっていうの。どうしてわかったの?」

「えー!!?」

思わず大きな声が出てしまう。だって、アレッサンドロって、まさかあのアレッサンドロと同一人物??

慌ててその口を両手で塞ぎ彼の顔を見ると、彼も呆然と澪さんの顔を見つめていた。