19.人魚姫

ドキドキしながらその扉を開けてゆく。

「どうしたんだ、いきなり」

明らかに戸惑う彼の声が聞こえる。でも、その口調からかなり親し気な様子だということが伺えた。

一体誰?

見たくない思いと見たいという思いが合わさっている。

わずかに開いた扉の隙間から自分の体を滑らせて玄関に入った。

「あら?どちら様?」

その瞬間、その誰かの甲高い声が廊下を伝って私の耳に飛び込んでくる。

思わずその場に直立不動で立ち尽くした。

廊下を塞ぐように立っていた彼の背中の向こうからひょっこり出た顔は……。

「もしかして礼兄ちゃんの彼女さん?」

礼兄ちゃん??

ストレートの漆黒の長い髪、丸くてくっきりとした二重、鼻筋の通った形のいい鼻、そしてにんまりと笑った薄ピンクの品のいい唇。

色の白いとても美しい女性だった。

年齢は私と同じくらいか少し上だろうか。

ひょっとしてこの女性は?

礼さんの体をぐっと押しのけて私の前に歩み寄ってきた彼女は、私よりも頭ひとつ分背が高い。シンプルな白シャツブラウスにジーパン姿だったけれどモデル並みのスタイルだった。

ペコリと頭を下げた彼女らにっこり微笑み言った。

「錦小路 (みお)です。兄がいつもお世話になっています」

「あ……初めまして、こちらこそお世話になっています。藤 都です」

慌てて私も頭を下げた。

やっぱり。

以前話していた彼の妹さんだ。不安は一気に解消し目の前に立つ美しい澪さん見とれてしまう。

なんて愛らしい人なのかしら。

彼とは似ても似つかないほどの愛嬌のある立ち居振る舞いだけど、この美しさは紛れもなく彼と同じ血が流れているんだろうと感じた。