その人は、スーツをびしっと着こなした長身の男性。年齢は私と同世代くらいだろうか。髪もきちっと整えられ、いかにも営業マンといった雰囲気だ。

えい!一か八か!

ベンチから思い切って立ち上がり、その男性に近づく。

近づいてきた私に気づいた男性は、眉をひそめつつも足を止めてくれた。

思わず私の足も止まる。

軽く深呼吸をして、男性にトップ・オブ・ジャパニーズフードの社員かどうかを尋ねると、思いがけず彼はその会社に勤めているとのことだった。

これはチャンスだと更に詰め寄ってみると、彼は肩をすくめ困ったような顔をする。

「君には申し訳ないけれど、社長はいわゆる一般の目に触れるような出版物には一切出ないよ。これまでもきっとこれからもね」

あ~、やっぱりだ。

でも、ここで引き下がるわけにはいかない。ようやく掴まえた人なんだもの!

「はい、それは重々承知していますが、こちらも簡単にあきらめるわけにはいきませんので」

その男性は「ふうん」と言いながら、ビジネスバッグを持ち替え意味深な笑みを浮かべた。

「じゃ聞くけど、君はここで社員を引き止めて何を知りたいんだい?」

私はごくりと唾を呑み込んで尋ねる。

「社長行きつけのN町のバーをご存知でしょうか?」

我ながらストレート過ぎるかと思いつつ、この機会を逃してはなるものかと必死だった。

もちろん教えてはもらえないだろうと覚悟を承知の上で。