ようやく彼の顔が離れ、目の前に潤んだ美しい切れ長の目が私を見つめている。

「あの、お店の方が来るかもしれないから恥ずかしいんですけど」

控えめに言ってみた。

だって、誰かに見られたりしたらきっと困るのは私以上に彼だと思ったから。

その途端、彼の目が細くなり「ぷっ」と吹き出した。

「確かにそうだ。都の言う通り店員が来たら大変だな」

そう言いながらも尚且つ笑っている彼をまっすぐ見つめて「何がおかしいんですか?」と問いかける。

「そんなこと考えながらキスしてたのかと思うと、お前らしいなって」

「だって、しょうがないじゃないですか」

「じゃあ、キスとそれ以上のことは俺の部屋でまたゆっくりと」

彼はそう言うと、私を軽くハグした。

今そんなこと言う?

顔がカーっと熱くなって心拍数が上がっていく。

その直後に個室の扉がノックされ、店員が入ってきた。

はぁ、ぎりぎりセーフだったかしら。

彼にしては迂闊な行動だと思いながら、大きく息を吐いた。

私にメニューを見せながら、前菜から副菜、メインディッシュ、デザートを選び、お酒は私よりも断然詳しい彼が決めてくれた。

私も基本何でも飲めるので、そこだけは唯一の共通点。

いやいや、共通点なんて言ったら恐れ多いか。

ソファーの前に運ばれてきた料理はどれも素材が最高で味付けもおいしかった。

こんな贅沢な空間で食べるから、一層満たされた気持ちになるのかもしれない。

デザートとワインを持って、夜景の見えるカウンターに二人で並んで座った。

デザートはティラミスアイス。

アイスとワイン両方を口に入れるとおいしいと彼に教えてもらい、半信半疑てやってみたら意外にもとてもおいしかった。