「やけに静かだな。緊張でもしてる?」

図星すぎて「その通りです」というのもしゃくな気がして黙っていると急に彼が私の手を握ってきた。

そして前を向いたまま静かに言った。

「会いたかった」

それだけで胸の奥が熱くキュンと震える。

「都は?」

彼が優しく尋ねた。

「私もです」

「そうか」

彼の口元が微かに緩み、私の手をさらに強く握りしめる。

こんなに幸せでいいんだろうか。幸せすぎて怖いくらいだ。

車窓の向こうに目を向けると土曜の夕暮れ時の街を楽し気に語らいながら歩く恋人たちの姿がやけに目につく。

この恋人たちもきっと私と同じように幸せな気持ちで歩いているんだろうか。幸せすぎて怖いなんて思ってる人がどれくらいいるんだろう?

ほどなくして彼のマンションが見えてきた。

彼はマンションの地下駐車場に車を置き、エレベーターで最上階のレストランに向かう。

やや落とされた照明で落ち着いた雰囲気の店内に足を踏み入れると、彼の部屋から見た以上の夜景が前方に広がっていた。窓に面した長いカウンター席には数組のカップル、そして店内の広いスペースにゆったりとした間隔で置かれたテーブル席には週末とあってか家族連れが目立つ。

私たちが案内されたのは、テーブル席の奥に伸びた通路にある、まるでホテルの一室のような個室だった。

15畳くらいの部屋にソファーとテーブルが中央に置かれ、酒を飲むためのカウンターが夜景の広がる窓側に設けられていた。

「すごいです……こんな個室があるんですね」

「ああ。この個室はレストランに一室しかないんだが偶然空いていてね。こちらの方が落ち着くかと思って」

彼はそう言って笑うと、真っ白な革張りで二人がけにしては大きなソファーに腰を下ろす。

「都も座れよ」

足を組み手招きする彼の横にドキドキしながら座った。

彼はすっと私の肩に手を回し、さりげなく私の頬にキスをする。

突然のキスに驚き声も出ない。

お店の人がいつ入ってくるかもわからないっていうのに、どう反応したらいいかわからず目を丸くして彼の顔を見つめた。

「お前のその戸惑った顔が愛しくてたまらない。もっと意地悪したくなる」

そう言うと、私の頬に両手で挟み熱く唇を塞いだ。

うっとりとするようなキスに、この場所がレストランの一室だということを忘れそうになる。