すると、少し声のトーンを落として山根さんが続けた。

「部長にも釘を刺されたんだけど、店舗に雑誌が並ぶまで社長の記事のことは外部に漏れないように気を付けて。あれだけマスコミを毛嫌いしていた人物がうちに出るっていうことは妬みから記事が出るのを阻止する動きが出ても少しもおかしくないから」

皆は互いに顔を見合わせて頷いた。

信頼できる仲間達。きっと漏れることはないと信じられる皆の目がそこにはある。

出版まであと二週間、守り抜かなくちゃ。

彼と編集部の皆のために。

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出版を目前にして彼に食事に誘われる。

彼とはこの三週間、メールでのやり取り以外していなかったから久しぶりだ。

連れて行ってくれるのは、彼のマンションの最上階にあるマンションの住人だけの会員制の高級レストランだという。

久しぶりに会うことに加えて、そんなセレブが集うようなレストランに行くということに更に緊張が増している。

彼は私の住むアパートまで自分の車で迎えにきてくれると言っていた。

アパートの前で待っていると、坂道を上がってきた黒光りのする大きな一台の車が私の前に停まる。

美しいボティと社用車よりはややスポーティなフォルムの外車から出てきたのは久しぶりに見る彼だった。

黒いTシャツの上にラフにダンガリーシャツを羽織り、下は細身の黒のジーンズ。

決して洗練されすぎているわけではないファッションだけど、長身でスタイルのいい彼が着ると何を着てもモデルのように格好よく見える。

「お久しぶりです」

そう言いながら思わず気おくれしてうつむいてしまった。