山根編集長が電話で私にアドバイスした通り、彼は特別な取材は受けないので記事の内容は私のメモだけが頼りだ。

彼からは、私とのベルギー滞在中に得た情報や言葉を好きなように記事にすればいいと言われている。

ノートに書きとったメモを見せながら山根さんに説明した。

「錦小路社長の名前を出すならトップ記事でもいいくらいだけど、敢えて普段通りの記事の扱いでいきましょう。ただ、枠は普段の倍はとっておくわ。彼に今回の敬意を表するためにもね」

「はい」

「内容については、なるべく彼の不利益にならないよう配慮して。あれだけの人が今回記事にすることを了承してくれたわけだからこちらもなるべくリスクにならない箇所をピックアップした方がいいわね。とりあえず、そのあたりも含めて四ページ枠で都の感じるままに原稿書いてみて」

「え?私が感じるままに書くんですか?」

思わず驚いて顔を上げた。

「あなたしかわらかない彼の素顔や姿があるはず。私がいくら憶測で構成してもそれがそぐわない場合もあるからね。社長もあなたを信頼して任せたわけだから一度あなた一人で構成まで考えて書いてほしいの。都、あなたならできるはずよ」

「わかりました」

私は彼女の目をしっかり見つめて頷いた。

大役だけど、このチームのため、そして彼のために私の人生をかけて書かなくてはならない。

「あと、あれだけの社長だから、情報をかぎつけて色々取り入ってくる人間が出てくる可能性があるわ。それだけはくれぐれも気を付けて」

山根さんはそう言った時だけ厳しい目を私に向けた。

まるで私たちのことを全てわかってるかのような目で。

彼だけでなく記事を書く私の言動もこれからは気を付けなくてはいけないってこと。

まさか、彼とそんな関係になるなんて思いもしなかったから、今はそれすらも危ういことだと感じた。

彼とはしばらく一緒にいない方がいいだろう。