その女性はふいに声をかけられ驚いた様子でこちらに視線を向ける。

「GO!GO!出版社?」

「はい。突然お声かけてすみません。実は社長に今度うちの社の雑誌に出て頂きたく思っているんですが少しお話伺えませんか?」

女性は明らかに不信感を募らせた表情で首を横に振ると、「急いでいるので」と言ってその場から立ち去った。

はぁ。

そりゃそうだよね。

いきなり声なんかかけられたら怪しいに決まってる。私だってきっと同じような態度を取るはずだ。

気を取り直して次行かなくちゃ!

気合を入れなおした時、エントランスから二人連れの男性社員が出てくる。

そばに近づき声をかけるも、二人は私に一瞥しただけで無反応のまま目の前を通り過ぎて行った。

次に来た年配の男性も同じく無視。こちらと視線を合わそうともしてくれない。

その後も何度か試みるも、皆が皆一様に足を止めることはなく話を聞いてくれるような人はいなかった。

最初みなぎっていたはずの体中の力が振られる度に失われていく。こんな事態は初めてだった。

萎えていく気持ちと共に足がどんどん重たくなっていき、しまいには一歩も足が出なくなっていた。

ここであきらめたらおしまいだということも頭ではしっかり理解しているのに、その後エントランスから出てくる人たちを何人見送っただろうか。

気持ちを仕切りなおすためにビル前に備えられているベンチに腰を下ろす。買ってきたアップルジュースを飲みながら時間だけが刻々と過ぎていくことに焦燥感が募っていった。

山根編集長のためにも、今私ができることを最大限やらなくちゃいけないっていうのに。

いつの間にか日は高く上り、お昼過ぎになっていた。

こんなことくらいで引き下がってどうするの?まだ社長の顔すら拝めてないじゃない。

『あきらめなければ絶対叶うわ』

そう言って、背中を押してくれた山根さんの声が頭の中にこだます。

再びエントランスから出てきた人影が目の端に映った。