「何いってるんですか?」

「怪しいなあー。それはそうと、昨日あれから錦小路社長には会えたわけ?」

彼女は半分にやけた顔で自分の席に戻ると、さりげない雰囲気を装って尋ねてきた。

そうだった。彼女の言うようにいいことあるじゃない。しかもとびきりの!

真っ先にそのことを編集部に報告しなければならなかったんだ。

浮かれ坊主になってちゃダメだよね。気合い入れなおさなくちゃ。

まずはボスに報告をと思ったら丁度席を外していたので、坂東さんに向きなおり顔を近づけ小さな声で言った。

「会えました」

「えー!やるじゃん。で?で?どうなった?」

「錦小路社長の記事、オッケーサインでました!」

「本当に?!」

やっと腰を下ろした坂東さんはまた立ち上がり目を大きく見開いて飛び上がった。

「おはよう」

そう言って川西さんとフロアに入ってきた山根さんは、飛び跳ねている坂東さんを見て苦笑する。

「一体何ごと?」

「編集長!」

私はすぐさま山根さんに駆け寄り言った。

「錦小路社長から記事の許可頂きました!」

「記事の許可?渡辺さんとアレッサンドロさんの記事じゃなくて?」

「はい!錦小路社長のことを記事にしてもいいって言われました」

「都、やったわね!」

山根さんは満面の笑みを浮かべ私の肩を叩いた。

「本当かい、それは?」

川西さんも目を丸くして目の脇をかいている。

「ええ、昨日、もう一度お願いに伺ったんです。必死に自分の思いを伝えたら承諾して頂けました」

「ほー、そりゃすごいな」

滅多に感情を表に出さない川西さんも頭を抱え嬉しそうに笑った。

「さ、早速記事についての打ち合わせするから都は会議室に来て」

編集長に呼ばれて会議室に急いで向かう。

ようやくフロアに登場した由美は騒然としている編集部をキョトンとした表情で見ていた。