大通りは夜間道路工事があるらしく、普段にも増して混んでいる。

庄司が気を使って抜け道でいきましょうかと尋ねるが、別段急いでいるわけではない俺はそのままゆっくり行くよう伝えた。

工事付近を抜けると、嘘みたいにスムーズに車は走り出す。

渋滞というしくみはどうも納得がいかない。まぁ、そういう時は慌てたところでいいことはないのは何度も経験済みだったから今ではさほどイライラすることもなくなったが。

バーの路地近くで車を降りる。

路地に入ると大通りの喧騒が一気に減り、更にバーに続く薄暗い階段で確実に下界と遮断される感覚が好きだった。

この場所では俺は俺自身で、社長でもなんでもなくなる。

黒い重たい扉をゆっくり開けると、人の顔がようやく見分けられるくらいの光が灯っている。

バーテンダーが俺に気づき、軽く口元を緩め頭を下げた。

彼の視線が妙にカウンターに座る誰かに注がれているのに気づき、その誰かが誰かということも瞬時にわかってしまう。

藤都?

薄暗くて彼女の横顔が見えるだけだったが、紛れもなく彼女だった。

どうしてここに?

俺の胸が大きく震えたが、敢えて悟られないよう平静を装いそんな彼女の隣に腰を下ろした。