彼は額に手を当てたまま微動だにしない。

「私の代わりはいくらでもいるけれど、あなたの代わりは他に誰もいないんです……」

全て言い終わった時、感極まって泣きそうだった。

最後に言った一言は、私が彼に抱いている正直な気持ち。

また偉そうなこと言ってあきれて物も言えないのかもしれない。

例え嫌われたって、彼の存在を記すのは私じゃなきゃ嫌だ。

カウンターの向こうにいたバーテンダーが、緊張している二人の雰囲気を察してか氷水を彼の前に置いた。

グラスの中でぶつかり合った氷が心地よく鳴る。

彼はようやく顔を上げ、私に向き直った。

その美しい切れ長の瞳の奥には、薄暗い店内をほのかに灯す電飾が揺らめいてる。

「……都の代わりも他に誰もいない」

「はい?」

大きく目を見開き、彼の顔を見つめる。

これは、引き受けてくれてるっていう意味なの?

それとも、全く違う意味なの?

体中が熱くなって、その瞳に吸い込まれそうになる。

「ここじゃゆっくり話せない。今から俺のうちに来ないか?」

彼の目が微かに潤んでいるように見えた。

いつも強引な彼とは違う姿がそこにある。

私には、記事にしてもいいか彼からその答えを聞くまでそのそばを離れるわけにはいかなかった。

そばを離れたらまた再び会えるのはいつになるかわからないんだもの。

彼の目をしっかり見つめ大きくうなずく。胸が大きく震えた。