はぁ~。やってしまった。

こういうところがいつも詰めが甘いと言われるんだよな。

しかもなんてニアミス!余計に悔しいじゃない。

彼はマンションに帰ったんだろうか。マンションの場所は、車で連れられたからどこなのかもわからない。

もしマンションに帰らないとしたら……。

うん、一か八かだ。

久しぶりに【あの場所】に顔を出すって選択肢が残っている。

私は彼と初めて顔を合わせた『Your Bar』に向かうことにした。

薄暗い路地に入り、バーのある地下に続く階段を降りていく。

そーっと、バーの扉を開け顔だけのぞかせると、カウンターに立ちグラスを磨いているバーテンダーがこちらに視線を向ける。

私は慌てて頭を下げ静かにバーの中に体を滑り込ませた。

相変わらず薄暗い店内は、目が慣れるのに時間がかかる。

扉に一番近いカウンター席に腰を下ろすと、バーテンダーにグラスビールを頼んだ。

カウンターに置かれた細かい泡が立ったビールは、ベルギーと比べて癖がないけれど、これはこれでおいしいと思う。

少しずつ暗闇に慣れてきた目は、バーで酒を楽しむ人たちの顔かたちがわかるようになっていた。

ドキドキしながら、その中に彼がいないか確認していく。

ううん、違う。

いや、あの人も違う。

一番奥のあの人は?

その顔を確認しようとした時、……ガチャ

バーの扉が開く音がして、バーテンダーがその方に顔を向けて軽く会釈をした。

ドクン。

なぜだか体中が震えて、その扉の方に顔を向けることができない。

張りつめた空気を纏った誰かが私のすぐ隣に座った。