たまっていた仕事を片付けていたら、時間はあっという間に過ぎていて時計は午後六時を指していた。

そろそろ待機時間だな。

私はまだ編集作業をしているメンバー達に詫びて先に職場を後にする。

随分日が長くなったので、六時を過ぎても空はまだ明るい。

彼のビルの前に到着すると、丁度帰社する時間とかち合ったのか次から次へとサラリーマン達がビルの外に出ていく。

こんな大きなビルだもんね。

どれだけの人がこのビルの中で必死に夢を追いかけているんだろう。

そして、彼はその必死で働く人達を守ってる。命をかけて。

一気に沈んだ日がうっすらとビルの表面をオレンジに染めていた。

ビルのエントランスで目を凝らしながら彼の戻りを待つ。

まるで忠犬ハチ公みたいだなんて思いながら、自分の鼓動が普段よりも速まっているのを感じている。

どれくらいの時間が経ったんだろう。ビルから出てくる人もまばらになってきた。

腕時計に目をやると、いつの間にか午後八時を回っている。

まだ戻ってこないのかな。

彼と出会う前もこうやって何度も待ちぼうけをくらっていたっけ。

一度目を離すと、なかなか会えないのが彼という存在。

今日はなんとしても会わなくちゃ。

そう思うも、彼らしき人物がビルのエントランスを通る姿を見つけることができなかった。

その時ふと、自分が大きなミスを犯しているんじゃないかって気づく。

彼は社長だ。

いつも移動の時は社用車を使っていたっけ……?!

ってことは、社用車はビルの裏口につけるよね?

ひゃー!!!

私ってば初歩的な待ち伏せミスをしてしまたんじゃない?

慌ててバッグを胸に抱え、ビルの裏口を探す。

裏に回ると、地下駐車場に続く裏通用入り口が見えた。

しまった!彼が出入りするのはここだ。

と思った時、地下からスーッと一台の黒い美しいセダンが上がってきて私とすれ違う。

車の後部座席の窓は黒くて誰が乗っているかはわからなかったけれど、運転手の横顔には見覚えがあった。

確か、何度かお世話になった彼の運転手?

「ま、待って!!」

通り過ぎたセダンに向かって手を挙げて叫ぶけれど、その声は空しく車がふかしたエンジン音にかき消され、車はそのまま大通りを走り去っていってしまった。