待っている間、生きてる心地がしなかった。ものすごく長い時間が経ったような気がする。

やっぱり私とは会ってくれないかもしれない……。

悪い予感がぐるぐると頭を駆け巡る。

こういう時は期待をしない方がいいんだ。期待して裏切られた時のショックは計り知れないから。

その時、受付嬢が電話を置き私の顔を見上げた。

ゴクリと唾を呑み込む。

「申し訳ございませんが」

はぁ、やっぱり。

「社長は、ただ今出張に出られたそうで、夜遅くにならないと社に戻られないようですがいかがいたしましょう?」

出張かぁ。拒絶されたんじゃないことに少しほっとする。

「何時頃にお戻りなんでしょうか?」

「夜遅くとしかわかりかねますが」

夜遅くか……また曖昧だな。

でも、今日中に一度ここに戻ってくることは確かだ。

ビルの前で待ち伏せしていれば必ず会えるってこと。

まだ時間はあるから社に戻って、一週間分のたまった仕事を片付けてからあらためて来よう。

「ありがとうございます。また出直します」

受付嬢は申し訳なさそうな表情で頭を下げた。

社に戻ると、坂東さんが驚いた顔で「もう帰ってきたの?」と笑う。

「ええ、社長は出張で夜にならないと帰らないみたいだったんで」

「あら、そう。残念だったわね。それはそうとずっと気になってしょうがなかったんだけど……」

坂東さんが私の耳元で小さな声で続けた。

「社長さんとはあのベルギーの旅路でドキドキするようなシチュエーションにはならなかったの?」