「ボスがお呼びだわ。きちんと報告してらっしゃい」

「はい」

坂東さんに背中を押されて、先に編集長が入って行った会議室に急ぐ。

ボスに報告することが何よりも今はつらい。

少なからずとも、錦小路社長の記事は私たちの編集部の解散が免れる唯一の光だったに違いないから。

会議室に会釈して入り扉を閉めると、山根さんの正面に座る。

「ひとまず、お帰り、都。一人で心細かったでしょう。無事に帰ってきてくれたことに感謝だわ」

「勝手な真似ばかりで本当にすみません」

「今回のあなたの行動は確かに私も度肝を抜かれたけれど、前に突き進むあなたの気概は、メンバー皆が一つにならなくちゃって思えるいい機会になったわ」

私は山根さんの顔を見れないまま、じっと机の上に視線を落とすしかなかった。

「あの……私、結局」

「錦小路社長には取材は断られたのね」

やっぱり。

何でもお見通しのボスには私が言わなくても全てわかっているようだった。

「すみません」

「都にしてはえらく元気がないのね。そんなことでへこたれるあなたじゃないでしょう?」

ようやく顔を上げた先には腕を組んだ山根さんが上目づかいに優しく微笑んでいた。

そうだった。

今回ボツになったからといって、まだあきらめちゃいけないんだ。

次に進まなくちゃ。

それなのに、私の思考回路はベルギーですっかり彼に侵食されてしまい、前に進めないでいた。

彼に突き放されたことが、こんなにも自分にダメージを与えるなんて。

悔しいけれど、日本に帰ってきてからも毎日彼のことが頭に浮かんで離れない。