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「おかえり!都!」

帰国した翌週、久々に出社するや否や、私の帰りを待ちわびていた坂東さんがすぐさま駆け寄ってきた。

その口元には朝から食べたであろうクリームパンのクリームがついていて、笑えない状況の中で笑ってしまいそうになる。

でも、いつもと変わらない坂東さんの顔を見たら、ようやく自分の居場所に戻ってこれたという安心感があった。

「坂東さん、口の横にクリームついてます」

私はさりげなく彼女の口元についていたクリームを指さす。

「さんきゅ、っていうか、クリームなんかついていようがついていまいが、もうどうだっていいわ!無事にここに帰ってきてくれて本当によかった!皆心配してたんだから」

坂東さんは口元を手の甲でぬぐうと、私を正面からぎゅっと抱きしめた。

なんだかそれだけで泣きそうになる。

だって、私は勝手な行動をしただけで何も皆の役に立ててないのに。

「すみません。結局私は役不足でした」

坂東さんの腕の中で小さく呟いた。

「そんなこと気にしない!最初から難しい相手だったのは皆承知の上だったでしよ。でも、都じゃなきゃ、ここまで接近することはできなかったと思うわ。都は十分よくやった!」

私から体を離した彼女は私の両肩を力強くポンポンと叩き、私の目をしっかり見つめ頷く。

「都ー、お疲れのところ悪いけど会議室に来て」

声のする方に顔を向けると、会議室の前でこちらに手招きする山根編集長の姿があった。