15.ラストチャンス

元々理解不能な相手だとは思っていたけれど、ようやく少しずつ彼の人なりがわかってきたと思ったのに。

いきなり「帰れ」だなんて、どういうことなのか全く理解できなかった。

しかも、あんなに優しく抱きしめてキスされたその直後のことだ。

きっとキスしてきたのは、彼が以前言ってたように私にスキがあったから。

だって、私もあの時、彼にぎゅっと抱きしめられたいって心のどこかで思ってた。

初めてのキスも、彼とならって不謹慎なことを考えていたのも事実だ。

きっとそんな自分の気持ちがバレてしまったから、一週間を待たず彼の信頼を失ってしまったんだろう。

そう思うしか今はできない。というかそう思わないと自分がどうにかなりそうだった。

……大人の男性ってやっぱりよくわからない。

翻弄するだけ翻弄して最終的に突き放す。

こういうのを弄ばれるというんだわ、きっと。

あんな色っぽく抱きしめられてキスなんかされたら、誰だって勘違いする。

もともと取材を引き受ける気はなかったんだ。

単に社長の気晴らしがてら出張に私を付き合わせただけ。

所詮私には不釣り合いっていうことがはっきりしてよかったのかもしれない。



……それでも、好きだったのにな。



不釣り合いな相手とだって恋はできる……なんて一瞬でも思ってしまった自分は大馬鹿だ。

帰りの飛行機の中で、そんなことを考えていたら涙が溢れて止まらなかった。

好きな人のことを思って泣くなんて私らしくもない。

失恋した上に、取材も拒否されたなんて、みじめで情けなくて、編集部の皆にどんな顔して会えばいいんだろう。

客室乗務員さんが持ってきてくれた冷たいトマトジュースをゴクンと飲み込むと鼻の奥に微かにレモンの香りがした。