饒舌で愉快なアレッサンドロと話していたら、いつの間にか時計は二時を指していた。

慣れない山越えは、十分余裕をもって出発しなければならないのに、俺としたことがやってしまった。

慌てて、都と二人でアレッサンドロに別れを告げる。

山を下りながら、次第に暗くなっていく空を見上げ、多少時間がかかったとしてもアレッサンドロに車で送ってもらえばよかったと後悔した。

今日は後悔が多いような気がする。そういう時は気を引き締めていかなければ大きな失敗をする元だ。

そんな風に考えることも、まるでこの先に起こるよからぬ出来事を予感させる。

妙にざわつく胸を押さえながら、そんな予感は気のせいだと自分自身に言い聞かせた。

その時「いたっ」と都の小さな声が後ろで聞こえる。

振り返り尋ねると、足にできたマメが痛んだと言う。

大丈夫だと、本人は言っているが、下唇を噛み目は微かに潤んでいた。

恐らく相当に痛みが増しているんだろう。

やはりパンプスで山道を歩かせたのは俺の失敗だった。ヒールが低いパンプスだからどうにかなるかと思ったが、山道は想像以上に険しい。

どこかでウォーキングシューズを買ってやればよかった。

この先は足元の悪い道に入る。

しかも今にも降ってきそうな雨雲に、先を急がなくては危険であると判断した俺は都を背負うことにした。

最初は困惑していた彼女も、よほど足が痛かったのだろう、少しすると観念したように俺の背中に体を預ける。

彼女の細い体はとても熱く、俺の背中にしっかりとしがみついてきた。

彼女のしなやかな腕が俺の肩にまとわりつき、その柔らかい身体が背中で揺れる。

歩くたびに彼女の香りが鼻をかすめ、俺の動悸を速めていった。

こんな状況で俺は何考えているんだ。

とにかく余計なことは考えず先を急がなければならない。