すると、なんとか私の体から離れてくれたアレッサンドロさんが「ノーノー」と人差し指を立て横に振る。

「僕の作ったパスタランチがあります。是非食べて下さい」

「いや、でも早めに帰らないと」

「すぐに用意できます!ね、みやこちゃん、食べていってください」

正直、お腹はとても空いていた。

このまままたあの山を越えて帰るのかと思うと、食べてからの方がいいような気もする。

私は困った顔で彼の顔を見た。

「では、あまりゆっくりはできませんがせっかくなので頂いてから帰ります」

そうだよね。それがいいと思う。

アレッサンドロさんは満面の笑みで私たちをソファー席に案内すると、「すぐに用意しますね」と鼻歌を歌いながら厨房らしき方へ向かっていった。

本当に短時間で作ってくれたパスタはヤギのチーズをたっぷりとパスタに和え、その上から黒コショウを振ったとてもシンプルなもの。

でも、そのシンプルさからは想像できないくらい濃厚なチーズが絡みおいしいったら!

「すごくおいしいです!」

これまで食べたパスタの中でも三本の指に入るんじゃないかしら。

無表情だった彼の頬も緩み、そのパスタをあっという間にぺろりと平らげてしまった。

食後は、おいしいコーヒーを頂きながらアレッサンドロさんの日本での留学中の話なんかをして盛り上がっていたら、いつの間にか時計の針は二時を指している。

私たちは慌てて礼を言い、アレッサンドロさんに見送られ急ぎ足で山を下りていった。

さっき頂いた日本酒のせいか、若干体がふわふわする。

やばいよね。それでなくても昨晩の二日酔いもまだ残っているというのに。

私は彼の後ろを一歩一歩足元を確認しながらついていった