その後、アレッサンドロさんのデスクワーク兼ミーティングルームに招かれ、お待ちかねの日本酒を頂く。

彼の作る日本酒の名前は「有難う」だと教えてくれた。

「僕が日本で覚えた一番好きな言葉です」

小さなグラスに入った少し生成りの酒は、ほのかにアルコールの甘い香りを放った。

口当たりはとてもさっぱりとしていて、いくらでも飲めそうなフルーティさもある。

やや軽めの印象はあるけれど、日本酒であることは間違いはない。

この地で日本酒をここまで作り上げたっていうだけでもすごいことだと思った。

それほど大量には生産できないけれど、この村や近くの街には必要があれば卸しているらしい。

「希少価値のある酒だと思いますよ」

彼はそう言って、その酒をゆっくりと口の中で転がし味わっていた。

「ありがとうございます。嬉しいです」

「よかったら、ミラノにうちが酒とつまみをプロデュースしている日本料理の店があるんですが、数本扱わせてもらえませんか?」

わ!

錦小路社長のお眼鏡にかなったってことなんだ。

確かにこの日本酒だったら、さっぱりしているからどの和食にも合うような気がする。

「え?ミラノみたいな都会の日本料理屋で?」

「ええ。日本酒はなかなか日本から持ってくるとなると本数が限定されるので、同じイタリアからだと新鮮なものが手に入るのはこちらもありがたいんです」

アレッサンドロさんは目をキラキラ輝かせて彼の手を両手で握りしめた。

「ありがとうございます!こんなラッキーなことが起こるなんて、信じられません!」