アレッサンドロさんが先に私に握手を求めたことに不満だったのか、彼は私の後挨拶をするとき珍しくニコリともせずその手を握った。

「忙しいところ、こんな場所まで来てくれてありがとうございました」

「こちらこそ急にお邪魔してすみません」

彼は頭を下げると、ようやくほんの少し口元を緩めた。

「とてもかわいらしい女性ですが、あなたの名前は?」

アレッサンドロさんは私に顔を向け尋ねた。

「あ……」

彼にくぎを刺されていたこともあって、浮かれた顔をしてはいけないと気を引き締める。

「藤 都です。今日はよろしくお願いします」

「ひょっとして錦小路さんのガールフレンドですか?」

アレッサンドロさんは彼と私の顔を交互に見ながらにっこり微笑んだ。

私は彼が答えるよりも先に言った。

「いいえ、違います。仕事の関係で同行させていただいているだけです」

アレッサンドロさんは「わお」と目を丸くして無邪気に笑うと、いきなり私にハグをする。

え?!

「それなら、僕のガールフレンド候補にしても大丈夫ってことですね?」

いやいや、そういうことにはならないと思いますけど。

突然ハグしてそんなこと言われて、どう答えていいかわからず、彼に助けを求めるように視線を送ったけれど、彼は明らかに不機嫌な様子で腕を組み私からそっぽを向いた。

助けてくれないんですか?!私は全くうぬぼれてませんって。

ようやくアレッサンドロさんは私から離れ、私の肩をがしっとつかんで言った。

「いつまでこちらに?もし明日も時間があるなら、この村は素敵な場所がたくさんあります。是非案内させて下さい」

「あのー」

この先の予定は私は知らぬ存ぜぬです、なんて言えない。

「申し訳ないが、明日にはまたベルギーに戻るので」

ようやく口を開いた彼は表情をピクリとも動かさずアレッサンドロさんに言った。