確か、あれは友人との飲み会だったっけ。

立ち上がった瞬間、足の感覚が全くなくて目の前が揺れそのまま地面に崩れ落ちた。

あの時は友達がたくさんいたから、なんとか支えてもらって帰れたけれど、今は錦小路社長しかいない。

まさか負ぶってくださいなんて言えるはずもない。

肩を貸して下さいなんて、社長様に何様かということになる。

もちろん、取材なんてその時点で断られてしまう可能性だってあるわけだ。

彼は先に立ち上がり、「ほら、行くぞ」と私を促す。

立てるか?

私はテーブルに両手をつき、全体重を預けながらゆっくりと腰を上げた。

……。

やっぱり。

足に力が入らない。

意識だけはこんなにも鮮明なのに、ワインの時はいつもそうだ。

行きかけた彼が私の方を振り返り眉をひそめた。

「どうした?」

どうしよう。なんとかゆっくりなら歩けるかもしれない。

「今いきます」

私はそう言うとゆっくりと右足を横にずらした。

「きゃっ!!」

その瞬間、足が妙な形で床につき、そのまま私の体は崩れ落ちていく。

崩れ落ちて……

崩れ落ちてない。

目の前に錦小路社長のきれいな顔がある。

そして、私の体は彼の腕に支えられ、倒れるのを免れていた。

「お前、やっぱり飲みすぎだろう」

彼は苦笑すると、そのまま私を抱きかかえた。

嘘でしょう?

まだお店にたくさん人がいるっていうのにお姫様だっこされてる。

店にいる客たちが皆嬉しそうに手を叩きながら、笑って私達を見ていた。