「本当にそれだけでしょうか?」

「本当にそれだけだ。他に何かあるか?」

私の考えすぎだったんだろうか。

とりわけ、今は彼に対してはナーバスになり過ぎてるのかもしれない。

「いえ、わかりました。それなら結構です」

私の心の中が見えてるのか見えてないのか、彼は意味深な笑みを浮かべながらコーヒーカップを傾けた。

「そろそろ夕食でも食べにいくか。さっき調べたらこのホテルの近くに地元の料理がうまいレストランがあるみたいだ」

一人で行ってきて下さいと言いたいところだったけれど、そんな風に言われるとお腹の空いた私は抗えるはずもない。

だって、食品関係の仕事のエキスパートだけあって彼が連れていってくれるレストランはどこも美味だったから。

しかも北イタリアの郷土料理なんて、気になるじゃない?

鳴りそうなお腹を押さえながら聞いてみる。

「こちらの郷土料理ってどんなものがあるんでしょうか?」

「この辺りは酪農が盛んだからね、バターやチーズなんか使ったリゾットや煮込み料理が多いんじゃない?」

うわー。

聞いただけでもお腹と背中がくっつきそうだ。

彼はコーヒーを飲み干すと、立ち上がり私を見下ろす。

「行くぞ」

「はい!」

私も慌ててコーヒーを飲み干し立ち上がった。