「それから、お前が変な誤解をしてはいけないから先に言っておくが」

「誤解?」

「俺の知る限り、イタリアの男性は女性には誰かれ構わず親切で人懐っこい」

「はぁ」

「ムード作りもうまいから、とりわけ男性に慣れていない女性はすぐにその雰囲気に呑まれてしまう」

「で、私はどうすればいいんでしょう?」

「要するに、優しくされたからってその気になるな、ってことだ」

なっ!

顔がカーっと熱くなる。

これって、馬鹿にされているよね、間違いなく!

私が男慣れしていないから、すぐその気になるだろうってこと?

それは今回の旅での彼の一挙一動にいちいち反応している私に向けられた言葉と捉えることもできる。

少々のことでうぬぼれるなってこと?!

リスクマネジメント第一の彼にとって、私がうぬぼれることは相当なリスクになるはずだ。

私にくぎを刺したともとれるんじゃない?

いや、そこまで性格悪くないか。

だけど、別に今それを言わなくてもいいんじゃない?

明日会うイタリア人男性にも失礼だっていうの!

私は大きく深呼吸して彼の横顔をきっとにらみつける。

「大きなお世話です。私それほどうぬぼれ強くないんで!」

彼はそんな私を一瞥すると、口元を緩めうつ向く。

「俺のたった一言から相当な想像力を働かせたようだな」

私はぐっと奥歯を噛みしめると、彼から目を逸らした。

「俺が言ってることはごく単純なことだ。イタリア男性には気を付けろっていうだけだ」