私がベッドに座って飲まれちゃ彼も落ち着かないか。

「はい、じゃ、お言葉に甘えて」

私は素直にうなずき、彼が指さしていた椅子に腰を下ろした。

彼はコーヒーを一口飲むと、カップをテーブルの上に置き再び窓の外に目をやった。

さっきよりも空の色が濃くなり、明るい夕日の色がくっきりと山肌に映る。

このまま無言でここに座っているのは正直耐えられなくて、彼のきれいな横顔に尋ねた。

「明日、訪問する日本酒を作られている方ってお若い方なんですか?」

彼はちらっと私に視線を向けると、「いきなりなんだ?」というような表情で片方の眉を上げる。

あら、静かに窓からの風景を堪能していたかったのかな?

こういうとき、よく知らない相手と二人きりの部屋っていうのはなかなか調子がつかめず気を使う。

でも、聞いてしまったものは今更取り消すことはできないわけで。

どうしようかと考えていたら、彼は窓に目を向けたまま答えた。

「彼の名前はアレッサンドロ。年齢は三十。三年前まで日本の大学に留学していて日本語も堪能だそうだ。聞く話では何事にも情熱的でこよなく日本の文化を愛してやまない人間らしい」

そうなんだ。

私とあまり年は違わない。

日本語が堪能なのは私にもありがたいことだった。

昨日から、彼の商談に同行してもほとんど何を言ってるかわからなかったから。

「日本語がわかるのは嬉しいです」

「お前にとってはそうだな」

相変わらず上から目線の言い方だったけれど、今この二人きりの状況下ではその方が安心する。