「そうですね……。俺の知る限り、これほど社会から注目されてるわりには全くマスコミに載ってこない社長が一人いることはいるんですけど」

「あー、そうそう私も最近旦那から聞いたような気がする。大のマスコミ嫌いなんだけど、めちゃくちゃ賢くてやり手で若いのに一代で会社を上場させたって。その上、噂では超イケメン社長らしいの。なんていう会社だったっけ?」

坂東さんは額に手を当て、必死に思い出そうとしている。さっきの血糖値上げるために食べていたアンパンは今こそ力を発揮すべき時だわ!

その時、すっと顔を上げた山根さんが私に視線を合わせた。

「日本食を世界に展開している『トップ・オブ・ジャパニーズフード・コーポレーション』の錦小路 礼(にしきこうじ れい)、三十五歳。業界でも名前を知らない人はいないくらいのやり手で有名な若き経営者。でも、坂東さんの言ってたようにマスコミや取材は常にお断りで、全くその人物像は謎めいていてるわ。新聞記者の友人が言うには、とにかく記者たちを撒くのもうまくて、なかなかその姿を拝むことすら難しいらしいの」

「そんなレアな社長、今回には打ってつけですよ!次号は是非その錦小路社長に出てもらいましょう!」

山根さんが言い終わらないうちに私はそう言って立ち上がり、皆に賛同を求めた。

なのに、皆どことなく無気力な表情で私から目を逸らす。

「俺も撮影できたら、かなりの収穫なんだけどねぇ。そんな簡単にいくならここまで皆苦労しないよ。あの大手のN新聞社も何度も取材依頼してるけど件茂幌呂らしい」

松下さんはそう言うと大きく伸びをして、椅子の背にもたれた。

「大手新聞社でも無理なんでしょう?女性ビジネス誌なんか更に相手にしてくれるわけないじゃない」

糖質をしっかり摂ったはずの坂東さんまで首を横に振りあきらめ顔で頬杖をついた。